共感したお話

Excelにスクリーンショットを貼り付ける仕事で鬱病になった話 - メモ帳

 

自分と同じ職業、同じような仕事をしているお話で、他人事に思えなかった。人がやる気を失う過程を克明に描いている。どこかでボタンを掛け違えていたら、俺もメンタルを崩していたと思うし、これからも起こりうる話だと思う。

 

仕事がつまらん。

より正確には、「自分の能力を必要とされていない」と感じた。

だって、Excelスクリーンショットを貼り付けるのって、両手さえあればできるからね。

Alt + PrintScrn、Ctrl + V、Alt + PrintScrn、Ctrl + V、……

仕事がつまらなくて、必要とされていないと思ったら、そりゃメンタルも崩すよね。

 

・お客さまと会議を繰り返し要件を固める(要件定義フェーズ)

・それをExcelの設計書に落とし込む(基本設計・詳細設計フェーズ)

・出来合いのソフトのパラメータを弄り、Excelスクリーンショットを貼り付ける(製造)

・ソフトを手順に従って操作し、Excelスクリーンショットを貼り付けてエビデンスとする(単体・結合・総合テスト)

といった具合である。

 

つまり、高等数学も、必死に勉強したプログラミングも、一切使わない、そんな仕事だ。

そんな仕事の合間合間にやってくる飲み会では、同い年の先輩(先輩は学部卒のため)に幹事の仕方、酒の注ぎ方で注意される日々……。

あるあるネタすぎて共感しかない。俺の周り、俺自身もそうかもしれないが、実際こんなことがとても多いですよ。正直、なにが楽しくてやってるのかわからない。上流工程をやったり管理する仕事をやらないと出世しないとか言われるけど、そればっかやってる人たちっていうのは、エンジニアなら効率化するようなことをできない人ばかりなんです。コミュニケーションと管理しかしてないんだから、技術的なことできないんですよ。だから当然技術に明るい人なんてあんまりいないんですよ。だからいつまで経っても非効率なことばっかりやってんのね。本当、正気じゃない。

この業界はそういう単純作業もわりと多くて、クソほど非効率なこと、すなわち紹介したブログに書かれたようなエビデンスの画像をひたすらExcel方眼紙に貼り付けることとか、本当に無駄が多い。技術を扱っているのに、技術力がないために、単純作業をさせるしかないことを意味するが、おそらく彼の上司も、彼の周りの人も、そういう単純作業を自動化なり、簡略化するやり方を知らなかったんだろう。「だからSierはダメ」と害悪論を語るつもりはないが、往々にしてある話。俺の場合、そんなクソくだらない単純作業を自動化したり、効率化させることに楽しみを見いだせたので、そこはラッキーだったのかもしれない。だが、それでGoogle行けるぐらいの技術力ついたかと言われたら、NOとしか言いようがない。そんなスキルは就職活動のなにに役立つのかと。

それでも、そういった単純作業を真面目に手作業でやってるフリして、実はツールなどで自動化、効率化していて、既に終わってるのに一生懸命まだ作業をやってるフリするのは楽しい(我ながら性格が悪い)。定時間際になって、いま終わった風に振る舞うことも本当に楽しい。「こんな単純作業振るぐらい必要とされてないんだ」と思うのも良しだが、「どんな単純作業でも、やるだけやったら金だけはきっちり巻き上げておかなきゃ」という気持ちと、「こんなアホらしい作業で金もらえるならまあいいか」という風に思わないと、そりゃあやってられないわな。

アイリッシュマン

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面白いかと言われたら全然面白くないし、長いかと聞かれたら長すぎる、と答えてしまうそんな映画。同じスコセッシが監督した映画、ウルフオブウォールストリートやグッドフェローズのような、ハイテンションな内容を期待すると肩透かしを食らう。テンポはミーンストリートに近い。あれぐらいのゆったり感。とはいえこのアイリッシュマンは、まさにスコセッシの集大成と言っていい、ものすごい映画だった。

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スコセッシと言えば、タフガイすなわち手強い男、転じて荒くれ者、マフィアやヤクザな男たちをよく描いてきた映画監督だった。盟友ロバートデニーロも、スコセッシ映画でそんなタフガイをよく演じていた。日本で例えるなら、、、北野武大杉漣の関係みたいな感じか。スコセッシも北野武も、わりと暴力が身近にある環境で育ち、暴力的な映画を撮ってきた。暴力の描き方も2人は似ている。俺の育った環境も、最近ゲーム龍が如くの舞台になってしまったような、タフガイの多い繁華街だった。その観点で、北野武やスコセッシ映画の暴力は「あ、これこれ!」と思ってしまう、リアルな暴力、リアルなタフガイたちの姿だった。漫画クローズがファンタジーのヤンチャなら、ウシジマくんを読むようなリアル感。国や人種は違っても、タフガイたちの行動原理ってのは似るもんなんだなと、スコセッシ映画を見てよく思っていた。そんな風に、タフガイや"男らしい"暴力をずっと伝えてきた監督、出演者たちが総出となって、2019年にわざわざアイリッシュマンというマフィア映画を撮ってまで伝えたかった、「男らしさとは?」という問いかけ、その行き着いた答えに打ち震えた。絶対に忘れられない、そんな必見の一作。いまのところ劇場とネットフリックス限定公開だけど、ブルーレイがあったら間違いなく買う。

 

ターミネーターニューフェイトを見て「ポリコレや女に配慮し過ぎ」と言ってる人たちに、このアイリッシュマンを見せたとしたら、多分死んでしまう。なぜなら、アイリッシュマンのスコセッシのメッセージは、そういうこと言う人たちに冷水を引っかける話だから。タフガイじゃない俺でさえもつらいぐらい、タフガイたちにや男らしさにこだわる男たちには辛辣なオチ。タフガイを撮ってきたスコセッシがこのオチを描いたことに脱帽でもある。

カミソリの米ジレット、「男らしさ」を問いかける広告動画が話題に。ネットには賛否の声 | ハフポスト

ジレットCM 「The Best Men Can be」

世の中の変化もあるのかもしれないが、男たちに「変わろう」と促すのではなくて、スコセッシはアイリッシュマンでまず足元を見させる。「お前らがやってきたこと、そしてその末路はこうなんだよ」と振り返りさせる語り口は、伝えたいテーマが淀みなく綺麗に伝わる。

 

アイリッシュマンでのデニーロの中間管理職的な大変さと、家族に見放されるところに共感、同情したが、女性がこの映画のデニーロを見ると「都合の良い男」「当然の報い」という感想になる不思議。当然の報いなんだけど、デニーロの肩を持ってしまいがちなのは、俺も古い男側の人間なのかもしれない。

 

デニーロと同じくタフガイをよく演じてきたアルパチーノも、ヒートを思い出す競演。そして意外にも初スコセッシ映画出演。ここ最近はもう大御所になってしまったからなのか、どの映画に出てもわりと省エネ演技感がすごかったけど、今回久々にパチーノが本気出してました。パチーノといえば元祖松岡修造と言うべき、熱血演説、熱血説教、そしてブチ切れキャラの演技で名を馳せた方ですが、今回はキャリア総決算な感じで良い演技でしたよ。

アイリッシュマンの男らしさに対してのアンサーと、登場人物の末路については、ヒートと対になる話でもある。

 

パチーノは熱血演説が行き着いてアメフトコーチ役までやってました。こんなコーチが会社にいたら俺も仕事さらに頑張る。

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パチーノの名作はいろいろあるが、好きなのはこれ。現代のラッパー、すなわちタフガイたちにも影響を与えた、ギラついたパチーノのバイオレンス映画の傑作。

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そしてスコセッシ映画常連のジョーペシも久々に出演してました。アイリッシュマンにジョーペシが出ると聞いて、まず思ったのはあのグッドフェローズやカジノで我々に見せつけた泣く子も黙るブチ切れ、狂犬キャラの再演。

"Casino" - Pen Scene

"Goodfellas" - Bar Scene

昔のジョーペシといえばこのイメージが強すぎて、ホームアローンの泥棒役なんか見ても「本気出してない?」と思ったほどでした。

アイリッシュマンでもかつての狂犬キャラを期待しましたが、パチーノとキャラが被るからなのか、今回は仁義なき戦いの山守組長のような「手を動かさない」ワルを円熟の演技で魅せてくれました。劇中、デニーロの子供がジョーペシに懐かないストーリーがありましたが、かつてのジョーペシを知る俺からすると、「当たり前だろ!怖すぎるよ!」と思いました。

 

 

アイリッシュマンの予告編で流れていた、マニッシュボーイという歌も、この映画のテーマに近い感じ。見た後にこのサイトで歌詞を読むと、映画とのリンクを感じます。

Mannish Boy

Mannish Boy もしくはオトコらしいオトコノコ (1955. Muddy Waters) - 華氏65度の冬

 

 

マーティン・スコセッシ「マーベル作品は映画じゃない」発言ふたたび ─ 「侵されてはならない」とのコメントが物議、その背景と真意は | THE RIVER

「映画館がアミューズメントパークになりつつあります。それは素敵なことだし、良いことだと思いますが、すべてが飲み込まれてしまってはいけない。あの手の映画を楽しむ人々にとっては良いことですし、彼らの仕事はすごいと思います。ただ、単純に私の仕事ではない。(マーベル映画は)“映画とはああいうものだ”と観客に思わせる体験を生み出していますよね。」

 

↑スコセッシだからこそ言える発言。スコセッシ自身わりとタフガイ寄りだから、「俺より面白い映画を作ってみやがれ」ってことなんだろけど、アイリッシュマンみたいな大傑作を撮った人が言うんだから、マーベル関係者はもうぐうの音も出ないだろうね。

 

 

ターミネーター:ニューフェイト

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幼い頃、親が借りてきたターミネーター2を見たことで、映画好きになりました。ダビングしてもらったターミネーター2のVHSは、軽く300回以上は見ている。そんなマイ殿堂入り映画がターミネーター2です。だから思い入れもひとしお。当然、シュワルツェネッガー映画に育てられて成長しました。

 

ターミネーターは今回を含めて、映画はなんと6作、TVドラマは1作。マーベルユニバースは色々なキャラを出して1つのアヴェンジャーズだけど、ターミネーターはT800とコナー親子ぐらいのキャラしかいないのに、よくこんなに長く続いたものです。下手したら、各々作品のターミネーターとコナー親子を集結させて、スカイネット打倒を目指すアヴェンジャーズが作れるレベルです。

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アメリカでも日本でも、世間一般的に1と2が殿堂入り扱い。その他345に関しては自分も否定的ですが、決してつまらない映画ではないんですよ。アクションはどの続編もすべて一級品。ただ、1と2を作ったジェームズキャメロンほどの、深い掘り下げ、作り込み(作家性、と呼ばれる所)がないだけで。ギチギチに詳細設定を作り込み、本編はひたすら引き算された映画になっている「鬼才」ジェームズキャメロンですから。ジェームズキャメロンの映画アバターも、パンドラという架空の惑星、架空の言語を作ってしまった、そんな鬼才、妥協なき映画製作をする人。

エイリアンシリーズのナンバリングタイトルは、リスク承知でジェームズキャメロンのような作家性の強い監督だけを起用している特殊なシリーズだが、ターミネーターシリーズは、リスク少な目、そこそこ面白い映画を作るシリーズになっていった。

 

ジェームズキャメロンのような突出した才能や作家性を持った監督を探すより、そこそこ面白く、それなりに稼げる方をターミネーターシリーズは選択したと。ただ、やっぱりファンとしてはまたジェームズキャメロン印であるとか、作家性バリバリなターミネーターを見たかった。そうこうしていたら、もう6作目になっていました。

 

そんなわけで、「T2の正統な続編」「今までの345は無かったことに」を謳う、今回のターミネーター。邦題ニューフェイト 、原題ダークフェイトを見ました。

 

実は見る前に、海外リーク情報サイトでプロットを読んだのですが…これを読んで以降、まるで劇中のサラコナー。ヤケクソ状態。「こんな映画絶対に見るかボケー」と言っていました。同居人の必死の説得で、仕方なく見に行きましたが、もう見る前から、期待半分どころの騒ぎじゃなかったです。期待値は氷点下マイナス、ストロングゼロ。「ダークフェイトは、ジェームズキャメロンが脚本と編集、製作総指揮として参画している。だから正統な続編なんだ」という触れ込みでしたが、ターミネーター5ジェニシス/新起動でのジェームズキャメロンの嘘宣伝(以下ツイート参照)にまんまと騙されたので、今回も見る前から話半分。まったく信用していませんでした。

 

映画がスタートして、リーク通りのある展開が開始3分ぐらいで起きて、この時点で「もうダメ、さようならターミネーター 、さようなら俺の青春」、そう思ってずっと映画を見ました………。その結果…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにこれ、すげえ面白いんだけど!!!!!

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以下見た後のツイート。

 

アーノルドシュワルツェネッガーごめんなさい、リンダハミルトンごめんなさい、ティムミラーごめんなさい、「見たくない、行かない」とスネて困らせた同居人ごめんなさい。でもジェームズキャメロン、てめえはダメだ(理由は後述)。

何はともあれ、本作ダークフェイトは最高でした!「T2の正統な続編」の売り文句は伊達じゃない。とはいえ、見た後なにがすごかったのかいまいち言葉にできず。色々思い返してみて、ここが良かったダークフェイト。

 

新キャラ グレースのかっこよさ

ターミネーター12でのカイル、シュワちゃんにそれぞれ相当する守護者役がグレース。これがものすごいカッコイイ。このかっこよさはなんだろうと思ったら、カイルや守護ターミネーターだけでなく、デッドプールに近いキャラクターなんですよ。身体を痛めつけられて改造され、副作用がありながらも、強くなったその身体で一途に恩人を守り抜く。デッドプールはコメディだけど、よく見たら相当悲劇な主人公だった。グレースはまさにデッドプールと同じ。そしてターミネーターシリーズのカイルとの親和性の高さ。監督ティムミラーがもっとも得意とするキャラクターだったんですよ。だから余計にグレースが素敵に見えたのかもしれない。予言するけど、10年後、きっとグレースに憧れたと言う大人がたくさん出るはず。マッケンジーデイビスはこれからさらに人気出るね。

 

怒涛のアクション

リンダハミルトンが宣伝で「前より10倍凄いアクションで、本編を見たら"なんてこった、なんてこった"と思う」と言っていたが、その言葉にウソはなかった。今までのターミネーターもキラリと光るアクションシーンが必ずあったけど、今回のダークフェイトはシリーズ最高峰と言っていい。しかも止まらない、ほぼノンストップ。まったくダレない。さすが、デッドプールのティムミラー。アクションの作りはとても上手でした。この感じ、マッドマックス怒りのデスロードの無駄のなさに近かった。

 

リンダハミルトンの復帰

345がグダついてたのはリンダの不在が理由なのか?と思うほど、画面に出るたびにビシッとビンタされたような緊張感。そして銃撃する姿が相変わらず似合う。本当にかっこいい。

 

シュワルツェネッガーの花道

本作でターミネーターを演じるのは最後と言っているシュワルツェネッガー。いつもより出番は少ないし、あくまでもそれはストーリーの一部ですが、シュワちゃん引退花道という内容でもありました。いつだって俺たちのヒーローとして映画に出ていたシュワちゃん。繊細な演技をする俳優ではなく、いまの時代ではもう珍しくなった「スター」。「背中で語る」、そういう俳優。そんなシュワちゃんの背中を見て育った世代ですから。

今作のシュワちゃんは、ターミネーターを演じつつ「一人親方個人事業主兼主夫」を演じています(ありのままの事実です)。シュワちゃんは大人になりきれない男性ファンに、こう語りかけてるようでした。

「夫婦生活ではターミネーターのように、何があろうとミッション(家事、育児)を率先して遂行するんだ。そのミッションではターミネーターのように、疲れ知らずにやるんだ。そしてターミネーターのように"うんうん"と、棒読みでいいからずっと奥さんの話をずっと聞いてあげるんだ。そしてたまにはターミネーターのようにボケてみるんだ」

 

こんな事は劇中で言っていませんが、私はシュワちゃんの背中から上記メッセージを受け取りました。イクメンシュワちゃんの姿を見て、やっぱりシュワちゃんは俺たちのヒーローだと思いました。

そしてシュワちゃんといえば、なぜか西部劇っぽくなる点も健在。今までの傾向を見ても、おそらくシュワちゃん、本当は西部劇に出たかったのかな?と思ってました。ミステリー小説「そして誰もいなくなった」を映画化したサボタージュも、途中まではデビッドエアー印の麻薬犯罪サスペンスが、見終われば昔の西部劇になっていた。ラストスタンドは未見だが、より西部劇っぽいらしい。

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ダークフェイトではティムミラー監督は、「勇気ある追跡(トゥルーグリット)」や「オレンジ牧場」みたいにしたかったと言う通り、かつて荒くれだった年寄りガンマンが子供を助けるストーリーを、T800ことシュワちゃんに当てはめた結果、これが見事に大成功。いまの歳をとったシュワちゃんでなければ、この哀愁は出せないですよ。

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完全燃焼物語が復活

T1とT2って、独立してる一話完結の話だったと思うんです。で、そのストーリーの中でキャラクターが完全燃焼する話だった。わりとスポ根というか。キャラクターが社会的信頼を失ったり、片道切符の任務だったり、肉体的にも散々な目、危険な目に遭って、体一つ、一か八かで人生を賭けて難敵に立ち向かう。難敵はフルメタルジャケットハートマン軍曹のように恐ろしくて、ネチネチとしつこい。そんな敵と立ち向かったあと、すべてを失うが、その後に見える、たった一筋の希望。

こんな話がまさにT1、T2だった。バッドエンドではないが、ハッピーエンドでもないこの感じが、ダークフェイトはしっかり継承してました。

 

運命は自分で選ぶもの

No fate, But we make.は、ターミネーター2のテーマだったが、これも復活していた。具体的には

  • 虐げられた人、または決められた運命の下にある人が
  • 未来からきた守護者に命を救われ
  • 戦いによって自身が成長することで
  • 未来を選ぶことができるようになる

男性優位の80年代初期に、シングルマザーとして自立する(せざるを得ない)ことを覚悟決める話がターミネーター1だった。ターミネーター2は定められた運命を生きていたサラとジョンが、運命を変える話だった。サラは精神病院で虐げられ、ジョンは養子に出されたことでグレていた。虐げられたことで心に傷を抱えたキャラたちが、奮発して未来を変えて自立していく。これがターミネーター12だった。これが今回のダニーとグレースの新キャラ、そしてサラとT800に対しても付与されていた。失って得るものもあり、劇中は小さな役割だが、存在を感じるジョンコナーのリーダーシップ。これはなかなか良かったです。

 

ダメだった点

ここだけ微ネタバレ注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメだったところはあまりないけど、これはやっぱりいただけなかった。あれだけエイリアン3に文句言ってたジェームズキャメロンさん、あなたがこれやったらあかん。世代交代で新しいキャラにしたいのもわかる。退場させたいキャラなのもわかる。だがその退場のさせ方。ティムミラーならきっと良い脚本を作ったんじゃないかなと思った。

『ターミネーター:ニュー・フェイト』、あのキャラクターを殺したのはジェームズ・キャメロンのアイディアだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ終わり

 

 

 

まとめ

評価は高いけど興行収入が惨敗とのことですが、きっとこのダークフェイト、カルト映画化すると思う。ティムミラーはジェームズキャメロンと編集中に大バトルしたらしいが、それってまるでエイリアン3の時のデビッドフィンチャーなんですよ。

 

ファイナルカット権が無くて、従うしかなかったところもそっくりで。それでもカットしきれない、滲み出るティムミラーの作家性。きっと大化けする監督だと思います(しなかったらちょっと悲しい)。俺としてはティムミラーで続編が見たい、素晴らしい一作でした。

ジョーカー

 

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すっかり時は過ぎてしまったが、公開日に見に行った。前評判どおりの衝撃作。スコセッシの往年の名作タクシードライバーと、キングオブコメディ(こちらは未見)をインスパイアしたというが、タクシードライバーも公開当時、ジョーカーのように「危険な思想の映画」という扱いをされたのだろうか。

 

ジョーカーについて、一番しっくりした感想はこれ。

DC映画『ジョーカー』海外レビュー、評価、感想 ─ ベネチア映画祭で絶賛「まさにジョーカーが望んだ映画」 | THE RIVER

米IndieWireは「世界を転覆させ、その過程で我々を狂わせる作品」だとも記した。「良くも悪くも、まさしくジョーカーが望むだろう映画です」

 

ジョーカーが望むものってどんなもの?という問いは、故・伊藤計劃氏の映画ダークナイト評が詳しい。

Watch the world burn. - 伊藤計劃:第弐位相

ジョーカーは知っているのだ。秩序に身を置きながら自警団として秩序を破らざるを得ない矛盾を抱えたバットマンと、世界がカオスに叩き込まれるのを心の底から望みながら、秩序という世界の枠組みそのものが崩れてしまうと「ゲームを楽しめなくなる」という矛盾を(楽しそうに)抱えた自分が、ともに化け物、コインの表裏であることを。

ジョーカーは人間の負の面を露わにする装置として、ゴッサムの夜を踊る。

 

公開後、まさにこのコメントのような状態になっているのはご存知の通り。みんなジョーカーに狂わせられてしまった。作品の解釈を巡ってはもちろん、格差の問題、機会不平等についても。内容は多岐に渡って。なんというか、この映画を仕掛けた監督そのものがジョーカーだと思った。

監督トッドフィリップスといえば、ハングオーバーとかデューデートとか、その辺のわりとボンクラ系コメディ映画を量産してきた人だと思ってたけど、今思えばその映画群に今回のジョーカーの原型となる人物がいた。特に、ハングオーバーザック・ガリフィアナキスが演じてるアラン(中年ヒキニート)は、わりと今回のアーサーに近い。そんなアランが友達を誰も作れず、親とだけ生活していったストーリーを考えるとジョーカーのメインプロットになる。

トッドフィリップスがコメディ映画を作らなくなって久しいが、こんな理由があるそう。

 

『ジョーカー』監督は「文化のせいでコメディは死んだ」と本当に言ったのか ─ 米報道が物議醸す、タイカ・ワイティティも反応 | THE RIVER

「このごろのウォーク・カルチャーの中で、笑いを取ろうとしてみましょうよ。“もはやコメディが成立しないのはなぜか”という記事がいくつか出ていましたが、僕からすると、それは、めちゃくちゃ面白い人たちが“やってられない、誰かを怒らせたいわけじゃないし”という感じになっているから。Twitterで3,000万人を相手に議論することは難しいし、そんなことはできない。でしょう? だから“僕もやめよう”と。僕の作るコメディは――すべてのコメディにそういう面はあると思いますが――不謹慎なもの。そこで、どうやってコメディ以外の方法で不謹慎なことをやろうかと考えたんです。」

 

初めて知った名詞だが、ウォークカルチャーとは、社会的公正を重んじ、差別の撤廃を掲げる運動のことなんだそう。例えばフェミニズムセクシャルマイノリティーのムーブメント、人種差別に対するムーブメントなどの総称的な意味を持つんだとか。

 

トッドフィリップスのコメント通り、この人のボンクラ系コメディ映画は、下ネタから始まり、人種ネタ、性別ネタとひたすらに不謹慎だったw でもそれが面白かったわけだが、このご時世はそうもいかんということで、店じまいをした事実がわかる。

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人が笑う理由にはいくつかあると思うが、その本質は滑稽なこと、くだらないことだと思う。じゃあその滑稽なこと、くだらないことはなんだといえば、それはたぶん誰かの悲劇なんだろうね。誰かがバナナの皮で転んでも見え方によっては、人は大爆笑する。ダウンタウンの「絶対に笑ってはいけない」も、あれだけ人がバットで尻を叩かれても、みんな笑う。叩かれる本人たちにしてみればすごい苦行だと思うが、神の目線としてテレビで見ていれば、本人が笑いに耐えきれずバットで尻を叩かれる光景は、尋常じゃなくおかしい。誰かの悲劇は、喜劇になるということは、古今東西変わらないんだろう。ジョーカーはまさに、笑いとは?を真摯に向き合って作られた映画だと思います。日本でもお笑い芸人からのコメントが多いのも、ちょっとわかる気がする。

で、昨今のウォークカルチャーはちょっと過剰気味でもあり。そういったお笑いに対して、例えば「絶対に笑ってはいけない」を例にするなら、暴力的だという批判であるとか。たしかに公正さや差別のない世界を目指す姿勢は正しいが、完全に公正は世界はないし、それを本当に訴える相手はコメディアンや献血ポスターに対してではない。

 

賛否の多いエンディングも、トッドフィリップスの発言を思い返せば、なんとなく伝わってくる。

このごろのウォーク・カルチャーの中で、笑いを取ろうとしてみましょうよ。“もはやコメディが成立しないのはなぜか”という記事がいくつか出ていました

 

どうやってコメディ以外の方法で不謹慎なことをやろうかと考えたんです。

 

ウォークカルチャーにウケるであろう格差や差別に苦しむアーサーをひたすら徹底して描写してじつに辛い悲劇として描きつつ、最後の最後で「君にはわからないよ」と盛大に梯子を外して「The End」。これぞトッドフィリップス!不謹慎ネタここに極まり、という感じで、アーサーが一世一代、ジョーカーへの狂い咲きをするのと同様に、映画全体の指針がアーサーの行動と同じく、社会に対してのリベンジと化していて、こりゃあ問題作だと思いました。 すごく面白かったです。日本で大ヒット中というのも頷ける話。

 

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デニーロも久々に本気出してた演技だったと思いました。アイリッシュマンも楽しみです。

 

 

ワンスアポンアタイムインハリウッド(ネタバレなし)

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クェンティンタランティーノの新作を見る。本人曰くこれが9作目で(キルビルは1-2で1つとしてカウントする模様)、次の映画を撮ったら映画界から引退する予定なんだとか。そんな寂しいことを言わずに、マーティンスコセッシみたいに何歳になっても映画を作り続けてほしい。仮に11作目がつまらなかったとしても必ず見に行くからさ。そう思わずにはいられないぐらい、今回も素晴らしい作品でした。

 

タランティーノといえば出世作パルプフィクションが有名で、初めてパルプフィクションを見た時は「話の本筋がなんだかよくわからないんだけど、なぜかとても面白い」という感想だった。映画っていうと派手な起伏があったり、大掛かりなアクションがあったり、人を愛したり、悲劇が起きたり、何かしらの激しいドラマがあるけど、タランティーノ映画は延々とキャラクターたちが無駄話をしていることが多い(もちろん残虐なアクションシーンもあるけど)。その無駄話は、まるで古い付き合いの友人と深夜のファミレスに行って、当てもなく会話をしているような、そんな内容ばかり。そんな不毛なシーンばかりなのに、キメるところはガツんとキメてくる感じで、見た後は不思議と面白い。そして無駄話を思い出して、登場キャラクターの生き様のかっこよさに震える。

映画ってこんなゆるい感じでもいいんだ、それでも面白い映画って作れるんだ、と初めて思った監督。

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今回はタランティーノが大好きなマカロニウエスタンシャロンテイト、そしてハリウッドそのものを描く映画で、「俺は映画が大好きなんだー!」という熱い想いが、今までのタランティーノ映画史上最も伝わる。今までの映画でもそれだいぶ伝わってきたけど、今作は映画愛メーター、振り切れてました。もちろん、タランティーノのフェチである毎度恒例、女性の生足シーンもたくさんありました(笑)

ブラピが演じるクリフの腹筋シックスパックにもなかなかうっとりでした。本当、ブラピはいい年の取り方していて、いくつになってもカッコいい。さすがタイラーダーデン!デカプリオも、落ち目という設定以外、わりと素の本人に近いんじゃないかと思うようなリック(ファッキン)ダルトン様を演じていて面白かった。そんな2人が、パルプフィクションのジョントラボルタとサミュエルLジャクソンのごとく、ひたすらブロマンスな会話するところは面白かった。メソメソなデカプリオを「仕方ねーなー」と言いながら面倒みて励ますブラピ、最高過ぎです。

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あとこのザワークラウト火炎放射器シーンは要注目。見終わってからも大爆笑でしたw

 

ブルースリーも登場人物として出て、タイラーダーデンとタイマンはります。この映画を見たブルースリーの遺族は「こんな傲慢ではない」と批判しているようだが、個人的には当時世界最強の名を欲しいままにした、伝説のブルースリーですから。これぐらい傲慢でもいいんじゃない?と思った次第。傲慢な奴に描かれても、それでも名誉毀損ぐらいの酷い描かれ方ではないと思った。むしろリスペクトされた感じ。だってあのブルースリーだもんね。俺たちの偉大な師匠の1人ですから。

 

 

残忍な手法で殺害されたシャロンテイトだが、きっとタランティーノは彼女が生きていたら映画に起用したかったんだなぁ、、とも思った。かつてパムグリアをジャッキーブラウンとして主役に抜擢したように。そんな叶わぬ夢をワンスアポンアタイムインハリウッドでついに叶えた。映画愛と復讐、爽快感、そして笑いを兼ね備えた奇跡のラスト。最高でした。これだけ映画が好きなんですから、映画ファンからも愛されるわけで。だから是非、何年ブランクが空いてもいいから、気長に映画を作ってほしい。そう思わずにはいられなかったです。

 

ちなみに劇中にはリックダルトン大脱走セルジオコルブッチなどの名前も登場しており、スティーブマックイーンも登場してます。往年の映画ファン、マカロニウエスタンファンは必見。

 

セルジオコルブッチの映画、続荒野の用心棒。棺桶を引っ張るカーボーイの話だったと思う。けっこう面白かった、渋かった記憶がある。原題は映画タイトルの通り、タランティーノ第7作目ジャンゴの元ネタ映画です。

続 荒野の用心棒 HDニューマスター スペシャル・エディション Blu-ray

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今では名監督として有名なクリントイーストウッド。彼も昔はリックダルトンのように、イタリア製西部劇に出演し、もっとも成功した俳優として知られている。

ちなみに荒野の用心棒は、黒澤明監督の用心棒のリメイク。そして、続荒野の用心棒とは何の関連もない(邦題考えた人のいわゆる題名詐欺)。

マカロニウエスタンのなかでは、続夕陽のガンマンが一番好き。

続 夕陽のガンマン (字幕版)
 

 

ワンスアポンアタイムインハリウッド出演が決定したものの、撮影前に急逝した俳優バートレイノルズ。バートレイノルズは、リックダルトンのモデルとも言われています。とにかくアウトローだけど仲間想い、普段はグレてるけどやる時はやる。負け戦でもとりあえず挑戦する男。そんなバートレイノルズのキャラクターは、歴代タランティーノ映画のキャラクターたちともマッチします。

ロンゲスト・ヤード (字幕版)
 

 

デカプリオ演じる斜陽俳優リックダルトンと、ブラピ演じるリックダルトン専属スタントマンのクリフの関係は、パルプフィクションのトラボルタとサミュエルを彷彿とさせるが、実は北野武のキッズリターンの主人公2人のような関係も、少し思い出した。キッズリターンでは主人公2人が「もう俺たち終わったのかな」「馬鹿野郎、まだ始まってねえよ」と明るくやりとりするが、どう見ても「終わっちまった」展開しか見えない哀愁が漂う話だった。ワンスアポンアタイムインハリウッドも、これから終わってしまうのかな、と思わせる結末が少し切ない。

 

 

タランティーノ映画はヘイトフルエイトだけまだ見れていないから、今度見てみよう。

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ただタランティーノ映画が未見だったり、デカプリオとブラピにつられてあんまり映画見ない人からは不評の様子。とりあえず興味あるけど予備知識がない人は、ここで紹介した映画を事前にレンタルで見て、以下のシャロンテイト事件の概要を見ていけば、だいたい映画の内容を理解できるはずだ。

チャールズ・マンソン(女優シャロン・テート殺害事件) | 恐怖体験や殺人事件都市伝説ほかの駄文 | エッセイ・ノンフィクション | 小説投稿サイトのアルファポリス

 

ワンハリとは関係のない、ある日本のドラマのラストシーン。妻を殺された主人公が犯人を捕まえた時、ひたすら犯人が殺人内容の詳細を言って挑発する。だが主人公は「お前は殺さない。お前はこれから刑務所の檻の中で、死ぬまでひたすらつまらない人生を送る。そして毎日、捕まえた俺の顔を思い出す」と言って、生け捕りで犯人を逮捕する。チャールズマンソンとその仲間の人生は、まさにこの犯人と同じだったな。

万引き家族

 

 

テレビのノーカット版で鑑賞。

あれから映画館で何を観ただろうか。なかなかブログを書こうとすると、筆が重くなってしまって、やめてしまう。仕事も忙しいし。

 

アクアマン、ゲットアウト 、この世界の片隅で、ゴジラキングオブモンスターズあたりを見たが、どれも面白かった。

特にゲットアウトは、もし劇場で見ていたらその年のベストだったほどの傑作だった。初監督のジョーダンピールはすごい。本職はコメディアンとのことで、作風もビートたけし的な二面性がある感じ。YouTubeで監督のお笑いコンビ、キーアンドピール(ザプレデターとかに出てたキーガンマイケルキーとコンビだったんですね)のコントを見たら、中学生レベルのしょうもないギャグばかりで、くだらなさに大爆笑。たけしのコマネチ!みたいなコントばっかりじゃないですか笑 映画作ったのは本当はゴースト監督なのかと思ったよ笑 映画もコントも最高だ。

Key & Peele - Sex Detective - Uncensored - YouTube

 

で、万引き家族

玄人が選ぶ映画祭で賞をもらったり、前々から評論家や見た人の感想も非常に高かった本作。だが自分の好みの問題で、なかなか邦画を見ようとする意思がなかった。つまらないんだもん、邦画。テレビでやらなかったら、見なかったでしょう。

評判とかあらすじをパッと見たり聞いたりした限り、貧困系のお話でわりと悲劇ということで、その辺りが貧困と縁のなさそうなリッチな方々、つまり映画祭で審査をするような方々にウケたのかな、と思った。実際見ても、「まあ富裕層からウケの良さそうな貧困描写してんなー」という気持ちが沸き起こり、ひねくれた見方をしてしまう自分がちょっと嫌。これが年の功ってやつです。劇中では、家族の面々がわりと良い人扱いな感じで描写されるんだけど、そこはさすがにファンタジーかなと。金がない生活ってのは、あんなに平和で幸せじゃない。現実世界に富裕層の人の横に、万引き家族に出てるような貧困家族を横に連れてきたとしたら、富裕層の人は嫌な顔をして逃げるはずだ。そして貧困層の人も汚い言葉を大声で罵っているはずだ。劇中のリリーフランキーみたいな、貧しくても人間性はステキなパパも中には居ると思うけど、かなり珍しいと思う。その辺りがファンタジーに思えてしまったのかもしれない。俺の育った近所は万引き家族みたいな人が多かったし、自分の家もわりと貧しかったから、この映画が単に貧困層を美化しているように見えたのかもしれない(大人になった私は金が全ての人間になってしまいました)。

 

とここまで散々ディスるようなことを書いてきましたが、貧困層を美化し過ぎ問題があったとしても、それでもやっぱり見終わったら心にジーンときました。特にケイトブランシェットも絶賛したと言われる安藤さくらの演技に、思わずもらい泣き。あの泣くシーンはズルいって。見てて辛かった。刑事がひたすら正論、当然警察ですから、法に則った話で取り調べを進めるんだけど、この刑事は今の自分なんじゃないか、と思ってしまった。

かつて貧困の世界が嫌で仕方がなく、とにかく金を稼ごう、こんな生活から抜け出してやると働いて、いまはそこそこの会社員になれた。会社員になったところで出世なんてしちゃないが、会社員の仕事は基本的に正論で進めることが多い。ルールを遵守しているか確認して、仕様を確認して、問題がないかテストして、整合性をとって、管理者に承認してもらって。むしろ、答えのない現実を正しい論理にどう合わせるか、みたいな仕事もあったりする。管理された組織はどこもきっちりした世界であることを求められる。そのきっちりした世界を、いろんな人に強要させるのが最近世の中になってきている。ここがこの映画の肝だったように思う。あの貧困の生活は確かに嫌だったが、今思えばゆるいなりの優しさがあった。それを人情と呼ぶのかもしれない。普段社会からしいたげられてる人は、痛みにも敏感な人が多い。だから人に優しくできるんだ。逆を言えば、エリート街道真っしぐらな人は人の痛みをまったく理解できない。それこそ正論で進めていくような人たちは特に。この映画は、後者が支配する社会で起きた悲劇を描いている告発でもある。父と子の映画としても、最近の日本のドキュメンタリーとしても傑作の映画でした。俺自身も、なるべく人に優しくできる人になりたいものです。それこそ劇中の駄菓子屋さん、柄本明みたいな人に。

 

多様性とは?

川崎の殺傷事件や、元事務次官の殺傷事件を見るに、いまの日本は相当生きづらい。

 

昔の映画を見ると、フーテンの寅さんや植木等のようなテキトーな人も許されていた世の中だったように見えるが、それがいつしか変わってしまった(そもそもフィクションの中だけで、当時も現実にそんな人がいなかった可能性もあるが)。何が生きづらいのかというと、「〜〜でなければならない」等の過度な押し付けが多いところ。「偏差値の高い学校に行かなければ」から始まり、「名の知れたいい会社に入らなければいけない」「正社員で勤めなければならない」「大人になったら結婚しなければならない」などといった、謎のあるべき論とその強制が蔓延してる。一部の偉い人たちの中だけに閉じた話ならそれでいいが、こういった押し付けがましいあるべき論がダイレクトで個人に来るように感じる。偉い人に文句言われるというか、同じ身分同士で相互監視されて、争いさせられてる感じ。もし自分が働いていなかったとしたら、「あの人は無職なのよ」と後ろ指さされるだけならともかく、人格まで否定される勢いで言われる感じ。誰がどこで働いてようが、働いてなかろうが、その人の勝手なのに。「他と違うからおかしい!」などと、大声で言われる筋合いもないし、他と違ったからといって恥を忍んでコソコソする必要もない。でも「おまえは普通じゃないんだから」といった理屈で、こういったあるべき論から外れた人、または言うこと聞かなかった人への圧力が、ここ最近ひどくなってきていると感じる。個人の自由が極端になさすぎる。正直めんどくさって感じ。リーマンショック就職氷河期を経験して「新卒カードを逃したらもうまともな就職先が無い」という、くだらない罰ゲームを体験した身からすると、こういった固定された考えは本当にくだらない。早く消え去れと思う。最近の日本は、外見だけ見れば一見多様性があるように見えるけど、その内面は新卒一括採用のみんな同じ髪型同じスーツ状態だ。

 

先の事件も、実際のところどうだったのかは想像するしかない。でも、天涯孤独で友達がおらず、結婚してなかったとしても、そんな生き方もアリなんだ認められるとか。無職期間があっても、社会復帰できる世の中とか。政治が法律がどうこうの前に、個人の判断や意志、生き方がもっと尊重される世の中になってくれと。それだけでだいぶ生きづらさや、息苦しさはなくなるんじゃないか。多様性がどうのこうの言っても、いまの日本には多様性の多の字もないから。

アメリカにいる親戚が、「アメリカは日本と比べてサービスも悪いし、物も揃ってないけど、精神的にいいんだよね。」と言ってたけど、そういうことだろうな。