検察側の罪人 インパール作戦

 

検察側の罪人 上 (文春文庫)

検察側の罪人 上 (文春文庫)

 

 

原作未読。原田眞人監督作品だが、原田監督の映画はあの「ガンヘッド」以来(!)の鑑賞(むしろそれしか見たことがない・・・)。

 

キムタクが「HERO」のようないつもの正義漢でなく、影のある中年敏腕検察官であり実質の悪役を演じる。対する二宮和也が、「キムタクのポチ」である若手検察官を演じる。キムタクは映画好きのあいだからは「否」の反応が多い俳優だけれど、この映画のキムタクは年相応な魅力があって、渋かったと思う。個人的にかなり良かった。二宮のおぼづかない若手演技もよかったけれど、もう二宮も35歳なんですね・・・。

 

やや雑多なエピソードが多く、もう少し交通整理してもよかったんじゃないかとも思ったり。いろいろ詰め込みすぎて、散漫気味になってしまった感はある。インパール作戦や、右傾化する政治家のエピソード、ラストのキムタク検事の扱いは原作にないものだったとか。でもなにか頭の中に引っかかる、そんな映画。自分の中でも「余計なエピソードが多かった、だから駄作」とは片付けられない、なにかがあった映画。

 

開始早々、新人検事に対して突然怒鳴り散らすキムタク検事。そこから「現在の捜査はすべて監視カメラと音声によって録音、録画されています。みなさん、発言には気を付けましょう」というつかみはオーケー。ある殺人事件の捜査が発端となり、キムタク検事の過去、そこから始まる「検察のストーリー」ありきの強引な捜査。捜査に疑問を抱く部下である二宮検事、キムタク検事を取り巻く政治家、ヤクザ。並行して明かされるキムタク検事の過去・・・。最後まで引き込まれた。

 以下ネタバレ。

 

先ほども書いたように、いろんなメッセージを詰め込みたいがゆえに何を訴えたいのか散漫になってしまった感じはあるものの、 インパール作戦のエピソードは良かったんじゃないかと思う。インパール作戦がとってつけたようなエピソードになってしまったのは、主役をキムタク検事にしてしまったことが敗因。話の主軸を以下のように二宮検事にフォーカスしていれば、インパール作 との対比ができる話になったんじゃないだろうか。 

  • キムタク検事から冤罪っぽい事案を押し付けられる
  • キムタク検事の考えたストーリーに沿わない結論は突っぱねられる(つまり真犯人は絶対に容疑者にならない)
  • 真犯人をマークしても、消息不明になる(殺される)
  • 真犯人ではない容疑者を逮捕することに耐え切れず、検察官を辞めるに至る
  • 容疑者の無罪を勝ち取っても、交通事故に見せかけて殺される
  • キムタク検事から事の顛末を暴露され、自身の仲間になるように言われる

 

最後は「お前がどんなにあがいても勝てないんだよ」と言わんばかりの態度を、かつて師だったキムタク検事から宣告されてしまったようなもん。おまけに、辞めてしまった二宮元検事と反対に、検察の中で出世もしたような描写が読み取れる。4年目ぐらいの若い子からしたら、これは絶望なんじゃないかと思う。だから最後の二宮元検事の叫びはとてもよく理解できるものだったし、インパール作戦のような無謀な作戦(事案)を押し付けられ、なにをやっても負け戦しかない兵士と同じ気持ちを味わったんだろう、と。対するキムタク検事も、尊敬していた祖父(インパールから生還して二度とあのようなことを起こすまい、とノンフィクション作家になった人)の意志を伝承できなかった。むしろ、無謀な作戦を押しつけて周囲が死人だらけになった牟田口中将のような人になってしまった。

冤罪なのに殺された容疑者は、時効成立した女性連続暴行殺人事件の真犯人(キムタクのかつてのクラスメイトを殺害した張本人。役者の気持ち悪い演技が光る)。野放しにしておくべきではない野郎。だからといって、キムタクのような国家権力を持った検察官があんな捜査をして、強引に逮捕してしまっていいのか?という、ひっかけがある映画。死刑に値する男に冤罪がかけられているので、事故に見せかけて殺される展開はせいせいするけれど、これは見る人をかなり試しているような作り方に見える。なにも検察だけに限った話ではなく、身の回り半径5メートル以内でもよくあること。「今の状態はおかしい、だから変えてしまおう」という言葉にひそむ悪意。目的を達成するためになりふり構わなくなって、ルールを逸脱すること。「良いことをする」という大目標のためにルールを無視したり、その痕跡を隠したり。そんな話はどこにだってあるけど、それって本当に正しいのだろうか、ということを検証させられた感じ。

もろもろの散漫に見えたまとまりのないエピソードも、公文書偽装、森友学園問題で揺れる今の日本にとっては、意味のある映画だったんじゃないかな。

 

 

 

余談

ちなみに吉高由里子はやっぱり清楚系メンヘラビッチ風情な役で、「こういう人っていざ、事が始めるとやたら積極的なんだよな・・・」と、劇中のシーンを見て思いました(最低)。