アイリッシュマン

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面白いかと言われたら全然面白くないし、長いかと聞かれたら長すぎる、と答えてしまうそんな映画。同じスコセッシが監督した映画、ウルフオブウォールストリートやグッドフェローズのような、ハイテンションな内容を期待すると肩透かしを食らう。テンポはミーンストリートに近い。あれぐらいのゆったり感。とはいえこのアイリッシュマンは、まさにスコセッシの集大成と言っていい、ものすごい映画だった。

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スコセッシと言えば、タフガイすなわち手強い男、転じて荒くれ者、マフィアやヤクザな男たちをよく描いてきた映画監督だった。盟友ロバートデニーロも、スコセッシ映画でそんなタフガイをよく演じていた。日本で例えるなら、、、北野武大杉漣の関係みたいな感じか。スコセッシも北野武も、わりと暴力が身近にある環境で育ち、暴力的な映画を撮ってきた。暴力の描き方も2人は似ている。俺の育った環境も、最近ゲーム龍が如くの舞台になってしまったような、タフガイの多い繁華街だった。その観点で、北野武やスコセッシ映画の暴力は「あ、これこれ!」と思ってしまう、リアルな暴力、リアルなタフガイたちの姿だった。漫画クローズがファンタジーのヤンチャなら、ウシジマくんを読むようなリアル感。国や人種は違っても、タフガイたちの行動原理ってのは似るもんなんだなと、スコセッシ映画を見てよく思っていた。そんな風に、タフガイや"男らしい"暴力をずっと伝えてきた監督、出演者たちが総出となって、2019年にわざわざアイリッシュマンというマフィア映画を撮ってまで伝えたかった、「男らしさとは?」という問いかけ、その行き着いた答えに打ち震えた。絶対に忘れられない、そんな必見の一作。いまのところ劇場とネットフリックス限定公開だけど、ブルーレイがあったら間違いなく買う。

 

ターミネーターニューフェイトを見て「ポリコレや女に配慮し過ぎ」と言ってる人たちに、このアイリッシュマンを見せたとしたら、多分死んでしまう。なぜなら、アイリッシュマンのスコセッシのメッセージは、そういうこと言う人たちに冷水を引っかける話だから。タフガイじゃない俺でさえもつらいぐらい、タフガイたちにや男らしさにこだわる男たちには辛辣なオチ。タフガイを撮ってきたスコセッシがこのオチを描いたことに脱帽でもある。

カミソリの米ジレット、「男らしさ」を問いかける広告動画が話題に。ネットには賛否の声 | ハフポスト

ジレットCM 「The Best Men Can be」

世の中の変化もあるのかもしれないが、男たちに「変わろう」と促すのではなくて、スコセッシはアイリッシュマンでまず足元を見させる。「お前らがやってきたこと、そしてその末路はこうなんだよ」と振り返りさせる語り口は、伝えたいテーマが淀みなく綺麗に伝わる。

 

アイリッシュマンでのデニーロの中間管理職的な大変さと、家族に見放されるところに共感、同情したが、女性がこの映画のデニーロを見ると「都合の良い男」「当然の報い」という感想になる不思議。当然の報いなんだけど、デニーロの肩を持ってしまいがちなのは、俺も古い男側の人間なのかもしれない。

 

デニーロと同じくタフガイをよく演じてきたアルパチーノも、ヒートを思い出す競演。そして意外にも初スコセッシ映画出演。ここ最近はもう大御所になってしまったからなのか、どの映画に出てもわりと省エネ演技感がすごかったけど、今回久々にパチーノが本気出してました。パチーノといえば元祖松岡修造と言うべき、熱血演説、熱血説教、そしてブチ切れキャラの演技で名を馳せた方ですが、今回はキャリア総決算な感じで良い演技でしたよ。

アイリッシュマンの男らしさに対してのアンサーと、登場人物の末路については、ヒートと対になる話でもある。

 

パチーノは熱血演説が行き着いてアメフトコーチ役までやってました。こんなコーチが会社にいたら俺も仕事さらに頑張る。

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パチーノの名作はいろいろあるが、好きなのはこれ。現代のラッパー、すなわちタフガイたちにも影響を与えた、ギラついたパチーノのバイオレンス映画の傑作。

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そしてスコセッシ映画常連のジョーペシも久々に出演してました。アイリッシュマンにジョーペシが出ると聞いて、まず思ったのはあのグッドフェローズやカジノで我々に見せつけた泣く子も黙るブチ切れ、狂犬キャラの再演。

"Casino" - Pen Scene

"Goodfellas" - Bar Scene

昔のジョーペシといえばこのイメージが強すぎて、ホームアローンの泥棒役なんか見ても「本気出してない?」と思ったほどでした。

アイリッシュマンでもかつての狂犬キャラを期待しましたが、パチーノとキャラが被るからなのか、今回は仁義なき戦いの山守組長のような「手を動かさない」ワルを円熟の演技で魅せてくれました。劇中、デニーロの子供がジョーペシに懐かないストーリーがありましたが、かつてのジョーペシを知る俺からすると、「当たり前だろ!怖すぎるよ!」と思いました。

 

 

アイリッシュマンの予告編で流れていた、マニッシュボーイという歌も、この映画のテーマに近い感じ。見た後にこのサイトで歌詞を読むと、映画とのリンクを感じます。

Mannish Boy

Mannish Boy もしくはオトコらしいオトコノコ (1955. Muddy Waters) - 華氏65度の冬

 

 

マーティン・スコセッシ「マーベル作品は映画じゃない」発言ふたたび ─ 「侵されてはならない」とのコメントが物議、その背景と真意は | THE RIVER

「映画館がアミューズメントパークになりつつあります。それは素敵なことだし、良いことだと思いますが、すべてが飲み込まれてしまってはいけない。あの手の映画を楽しむ人々にとっては良いことですし、彼らの仕事はすごいと思います。ただ、単純に私の仕事ではない。(マーベル映画は)“映画とはああいうものだ”と観客に思わせる体験を生み出していますよね。」

 

↑スコセッシだからこそ言える発言。スコセッシ自身わりとタフガイ寄りだから、「俺より面白い映画を作ってみやがれ」ってことなんだろけど、アイリッシュマンみたいな大傑作を撮った人が言うんだから、マーベル関係者はもうぐうの音も出ないだろうね。